生きづらい世界
わたしが高校生の時。
とても仲良くなったお友達Aさんがいました。
その子は明るくて活発で、歌を歌うのが大好きな子でした。
わたしも歌うことは好きでしたので、よく遊びで一緒にハモりながら歌を歌っていました。
面白い話も沢山して、本当に良いお友達を持てたなと思いました。
ですが、それは長くは続きませんでした。
仲良くなればなるほど、Aさんはわたしから離れようとしてきたからです。
当時はまだガラケーの時代でしたので、連絡手段はもっぱらメールでした。
いつものようにメールを送ろうとすると、送れなかったのです。
その子はわたしに何も伝えず、自分のアドレスを変えていました。
学校に行っても顔を合わせてはくれず、いつも遊んでいなかった子の近くへ行って楽しそうに笑いながら話していました。
何かしたかな?
気に触ることがあったのかな?
たくさん悩みましたが、分かりませんでした。
遠回しに、「わたし何かした? 嫌なとこあったら直すから」
とAさんに伝えたりしましたが、ショートメッセージで「死ね」と言われるばかりで何でそんなに無視して怒っているのかさっぱり分かりませんでした。
そして、Aさんは他の仲の良い子ともだんだんと拒絶していきました。
わたしと同じように連絡を絶ちきられる子も出てきました。
どうしてなのか?
誰も理由はわかりませんでした。
Aさんはいずれ、完全に孤立していきましたが、唯一離さない友達Bさんがいました。
Bさんだけには心を許し、その子とだけ一緒にいるようになりました。
どんなに辛いことがあっても、BさんにAさんは慰めて貰っていました。
どうして二人は仲が良かったのか?
二人はレズだったからです。
いつの間にか意気投合していた二人は、周りが恥ずかしいくらいの恋仲になっていました。
人目も構わずべたべたくっついて抱き合ったりしていました。
本人達は良くても、周りからしたら大迷惑です。
写真を撮って面白がる子もいたし、陰口している子もいました。
それでも、二人は幸せそうでした。
しかし、だんだんとまたAさんの様子がおかしくなり、ついにBさんにも辛く当たるようになりました。
連絡を絶ちきるようなことはありませんでしたし、ずっと一緒にいるのも変わらなかったですが、明らかにAさんがBさんを虐めるような態度に出ることがありました。
だんだん大きく、目立つようになりましたが、
それでもBさんはAさんを怒らずに、逆に「あいつは可哀想だ」と彼女の為に泣くこともありました。
完全に拒絶されているわたし達には何も理由は分かりませんでした。
全てを知っているのは、Bさんだけです。
そのBさんが、Aさんに酷いことをされても絶対に離れようとしなかったのは、Aさんには何か退っ引きならない理由があるからだと思いました。
月日が経ち、わたし達は卒業しましたが、後になって分かった話です。
当時のAさんは、家で母親から虐待を受けていました。
そのストレスでBさんに当たってしまうようになり、
学校でその様子を見た他の子が担任の先生に教えていました。
そして、担任の先生がAさんの母親へ連絡します。
Aさんは帰宅後、また暴力をふるわれていました。
それの繰り返しだったそうです。
Aさんは、母親に叩かれるから言わないで欲しいと担任に縋りました。
ですが、担任の先生は「うん、わかった!」と言ったものの、言うのをやめず、
仕舞いには「先生とお母さんと面談で今後の事を話し合おう!」
と言われていたそうです。
わたしや他の子達と急に連絡を絶ちきったのは、自分の精神状態がおかしくなっていることに気がついたAさんが、自分の被害に遭わせたくなかったからだと後に教えてもらいました。
しかし、Bさんだけは離せなかった。
Aさんにとって特別で、唯一の心の支えだったから。
そんなBさんを辛い目に遭わせてしまう自分が嫌になってしまい、リスカなどもするようになっていました。
どれだけ悩んでいたのか。
どうして相談してくれなかったのか。
勝手なことをたくさん思いましたが、Aさんにとってはわたし達と一緒に過ごした時間が本当に楽しかったようで、その思い出を壊したくなかったんだそうです。
思う事はたくさんあります。
ですが、唯一よかったと思うのはBさんの存在がAさんにはあったことでした。
本当に、この世の中は生きづらく、辛いことや苦しいことは沢山あります。
その中で、一緒に居てくれてありがとうって思える相手がいたならば、それは本当に幸せな事です。
自分が歩んでいる人生、一歩一歩をゆっくりでも着実に進んで生きたいですね。
(つづく)