ブラック企業の実態

 

 

夫は今までに3回の転職をしてきました。

 

それは、いつでもきちんとやめる理由があってのことです。

 

何回も繰り返し悩み、考えながら私と一緒に出した決断でした。

 

就職は、なかなかどこにしようか難しい部分があります。

 

そして、始める理由よりも、辞める理由の方が深く悩み決断すると思います。

 

最初は親戚が経営している土建屋さんでした。

親戚同士の付き合いで高校を卒業してから入りましたが、なかなか満足な給料をもらえず親戚だからと軽い扱いを受けていました。

 

それが、1度目の転職をするタイミングでした。

どんなに頑張っても、この先もっと給料を貰えるようになるどころか、普通は貰えている金額にも届かないように裏で隠蔽操作されていました。

親戚同士で対立し、仲の良くない兄弟間でしたので、それが一番の辞めるきっかけになったと思います。

 

次の職場は、工場で三交代勤務の会社でした。

地元にある小さな工場で、地方に本社を構えていました。

そこでは1週間おきに、早番・中番・夜勤が班で入れ替わり三交代でシフトが変わっていきました。

 

初めの頃は、慣れないながらも頑張って仕事を続けていました。

やいのやいの言いながらも、よくやっていたと思います。

 

ある頃を境に、会社の景気が思わしくなく、尋常じゃないほどの仕事量が襲いかかってきました。

 

つべこべ言わずにやれ、残業をするな、納期を終わらせろ、作り置きをするな。

 

思いがけない理不尽な言葉の数々が、夫や班の人達に注がれていきました。

 

人数も少なく、常に人手の足りない工場でしたので、工場長や上司の方々からの強いお指摘はそのままストレスとなって襲いかかってきました。

 

それでも当たり前のように、仕事をする日々。

 

三交代で夜勤の時は思うように昼間あまり寝ることが出来ず、定時の8時間勤務の後に暗黙の了解でサービス残業を6時間することがザラになってきました。

 

残業をするなと口先だけ言っている上司も、実際には個人のシフトをしっかり把握はせずに残っていても見て見ぬふりをしていました。

 

それでも、いくら残っていても全てサービス残業です。

 

貰える給料は、夜勤手当が付いた定時分のみの給料でした。

 

三交代でのあまりの過酷さに、夫はついに身体を壊してしまいました。

 

精神的な、心の病気です。

 

いつもニコニコ笑っていた夫はもういませんでした。

 

泣きじゃくり、疲れ果て、給料明細を見てため息を漏らし、会社でいくら頑張っても誰も褒めてはくれず、逆に罵倒され「容量が悪いからだ」などと叱られる毎日でした。

 

友人達とたまに出かけて食事をしたりするのが楽しみだったのですが、あるきっかけで体調を崩し、友人に迷惑を掛けてしまってからは臆病になり、外出もままならなくなってしまいました。

 

2回目の職場が、一番心労に応えたと思います。

この頃の心境の変化や見た目の変わりようが明らかでしたので、私ももう見ていられなくなりました。

 

もう良いよ。

十分、頑張ったから。

 

もう、自分を追い詰めなくて良いよ。

 

そんな励ましの言葉をたくさん言っていたと思います。

 

そして、悩みに悩んだ末に、夫は会社を辞めました。

 

そこからは、すぐには転職先を探さずに、とりあえず寝かせました。

 

寝て、寝て、寝て、好きなことをさせて、ご飯を沢山あげました。

 

仕事で重ねた苦労の分、それ以上にしっかり休ませてあげたかったのです。

 

人間が一番大切にしなくてはいけないのは「心」です。

 

会社の為と頑張った夫の苦労は、使えなくなったらいつでも代わりがいるただの機械人形でした。

 

身体の疲れ、心の疲れ、しっかり休めて、また笑って欲しい。

それが一番の辞めて欲しかった理由でした。

 

 

 

そして、ようやく心身共に安定してきた頃に――

次の転職先を見つけ始めたのです。

 

 

 

(つづく)